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東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)332号 決定

主文

原裁判を取消す。

本件保釈請求を却下する。

理由

一、申立の趣旨及び理由の要旨

本件は、刑事訴訟法八九条一、四、五号に該当し、かつ裁量により保釈を許すのが適当な場合ではないのに、これを許可した原裁判は判断を誤ったものであるから、原裁判の取消しを求める。

一、当裁判所の判断

一件記録によれば、本件は、刑事訴訟法八九条一号に該当し、また、本件強姦罪の成否については、本件以前の被告人と被害者M子との関係、本件犯行場所の被告人宅に至るまでの経緯、本件犯行の態様、被告人と、被害者間での金銭授受の時期及び趣旨、被害者が本件告訴に至るまでの経緯が主たる争点と考えられるところ、右諸点について、被告人と被害者の供述に大きな食い違いがあり、また本件犯行態様については、被告人宅の隣室の居住者R子の供述が、本件犯行前後の経緯については、被害者の夫や被害者とその夫の勤務先の上司等関係人の供述がそれぞれ重要であると考えられ、一方、被告人の前歴や粗暴な性格、被告人と被害者の関係、更に、被告人と右関係人等との関係を考え合せると、第一回公判も開かれていない現時点において、被告人を釈放するときは、右諸点につき、被害者や右関係人等に働きかけ、あるいは関係人等と通謀して罪証隠滅をする疑いが濃く、刑事訴訟法八九条四号にも該当すると認められる。

次に裁量により保釈するのが適当であるか否かにつき判断するに、原決定は、争点となるべき諸点に被告人の充分な防禦権を行使させるためと、罪証隠滅のおそれの点は、被害者との面会禁止を保釈条件とすることにより、違反した場合の保釈取消と保証金没取を以って、これを防止することとして、裁量により保釈するのが相当であると判断しているわけであり、右判断は多分に傾聴に値いするけれども、被告人の防禦権と公判維持の調和を計る立場からは前記のとおり、第一回公判も開かれていない現時点において、被告人を保釈するときは、罪証隠滅する疑が濃く、単に保釈の取消、保証金の没取をもって罪証隠滅を防止できるとするにはなお若干の疑念を抱かざるをえず、身柄拘束による被告人の防禦権の制約は、すでに選任されている弁護人との十分な連絡により、ある程度解決できると考えられ、他に裁量により保釈すべき事由も見出せないところから、現時点においては、当裁判所は裁量により保釈するのも適当でないと思料する。

よって、本件準抗告は、理由があるから、刑事訴訟法四三二条、四二六条により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山本卓 裁判官 清野寛甫 大谷剛彦)

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